売上ゼロの会社がNasdaqでIPO
今年(2018年)5月、シンガポールのASLAN Pharmaceuticalsという製薬会社がNasdaqにIPOしました。ASLANはIPO直前の2017期、連結売上がゼロ、税前利益が40百万ドル($1=100円換算で約40億円)の赤字でした。新薬の開発をしていて、開発中のパイプラインが上市できれば売上、利益が計上されてくるのでしょうが、日本のIPOでは売上ゼロの会社がIPOするということはまず考えられません。実際に昨年(2017年)に日本でIPOした会社は合計で90社ありましたが、そのうち直前期に売上が一番少なかったソレイジア・ファーマでも約2億円の売上がありました。利益に関しては、赤字だった会社はありましたが、90社中たったの6社で、一番赤字額が大きかったマネーフォワードでも赤字額は9億円でした。
東証マザーズもNasdaqも共に、上場に際して売上や利益が必ずしも必要ではありません。従って、理論的には売上ゼロの赤字会社でもIPOすることは可能です。しかし実際には売上がゼロで赤字の会社では、どんなにその事業に将来性があっても、失敗するリスクも相応にありますから、日本の証券市場では幹事証券会社は時期尚早と判断するでしょうし、やろうとしても株価は期待できません。
一方、Nasdaqでは売上がゼロだったり赤字だったりする会社でも続々とIPOしていますし、そのような会社に対してもしっかりとした株価(評価)がついています。他方でNasdaqでは、上場基準を満たせなくなり上場廃止になる会社が経常的に発生します。Nasdaqにおいては企業も投資家もリスクテイクを厭わないというカルチャーが存在していると言えると思います。
Nasdaqの上場要件は?
ところで、Nasdaqと一口に言っても、実は3つの市場が存在します。
NASDAQ Capital Marketはsmall capとも呼ばれ、3つの市場の中で最も時価総額が小さいスタートアップの会社向けの市場です。
NASDAQ Global Marketはmid capマーケットで、中堅規模の会社が集まっています。
NASDAQ Global Select Marketは世界的にも名前が知れた大企業が集まっているトップティアの市場です。日本企業ではFRONTEO(旧UBIC)は2013年の上場時はGlobal Marketでしたが、2014年にGlobal Select Marketに昇格しています。IIJも現在はGlobal Select Marketに上場しています。
Nasdaq上場は大企業だけでなく、売上ゼロのスタートアップ企業でも可能だというのは前述の通りですが、具体的にNasdaqの上場要件はどうなっているのでしょうか?詳しくはNasdaqのサイトに載っているのですが、スタートアップのベンチャーがNasdaq上場を考える場合は、一番要件の緩いNASDAQ Capital Marketになる可能性が高いので、ここではNASDAQ Capital Marketに焦点をあてて紹介してみたいと思います。
Nasdaq Capital Market上場要件
要件 | 資本基準 | 時価総額基準 | 利益基準 |
株主資本 | $5 million | $4 million | $4 million |
浮動株時価総額 | $15 million | $15 million | $5 million |
事業継続期間 | 2 years | — | — |
時価総額 | — | $50 million | — |
継続事業税引前利益 (直近年度または過去3年のうち2年) |
— | — | $750,000 |
浮動株式数 | 1 million | 1 million | 1 million |
株主数 | 300 | 300 | 300 |
マーケットメーカー数 | 3 | 3 | 3 |
買呼値
または 終値 |
$4
$3 |
$4
$2 |
$4
$3 |
Nasdaq Capital Marketに上場するためには、上記の3つの基準、資本基準、時価総額基準、利益基準のうち、いずれか一つを全て満たす必要があります。
資本基準の場合、(株主数などの他の要件を満たしているという前提で)2年以上の事業実績があり、かつ5百万ドル以上の株主資本、さらに15百万ドル以上の浮動株時価総額が必要とされている一方で、売上や利益の要件はありません。
時価総額基準の場合は、50百万ドル一定の時価総額が必要となりますが、事業年数は問われませんし、株主資本は4百万ドルで足りるとされています。こちらも資本基準同様に、売上や利益の基準はありません。
利益基準の場合は、上場直前期、ないし過去3年のうち2年において、継続事業税引前利益が75万ドル計上されていることが必要ですが、時価総額の要件は無く、浮動株時価総額は5百万ドルで足りるとされています。
会社のステージや状況に応じて一番充足しやすい要件を利用することになると思いますが、東証マザーズの上場基準(流通株式時価総額5億円以上、時価総額10億円以上等)と比べても特別にハードルが高いという訳ではないと思います。
Nasdaq Capital Market 継続上場要件
要件 | 資本基準 | 時価総額基準 | 利益基準 |
株主資本 | $2.5 million | — | — |
上場株時価総額 | — | $35 million | — |
継続事業税引前利益 (直近年度または過去3年のうち2年) |
— | — | $500,000 |
浮動株式数 | 500,000 | 500,000 | 500,000 |
浮動株時価総額 | $1 million | $1 million | $1 million |
買呼値 | $1 | $1 | $1 |
株主数 | 300 | 300 | 300 |
マーケットメーカー数 | 2 | 2 | 2 |
継続上場要件は、Nasdaq上場中に継続して充足していなければならない要件で、当初どの基準を用いて上場したかに関わらず、Nasdaq上場中は上記のいずれか一つは満たしていなければならないという基準です。言い換えると、上記の基準のどれも満たすことができなくなった場合は上場廃止となります。
なお、継続上場要件を満たせずNasdaq上場廃止となった会社は、店頭市場(OTC)に移行することがほとんどです。
次回はこのような店頭市場について説明します。
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