OTCは米国上場への足掛かり ― uplistingがもたらす戦略的可能性

2025年6月、それまでOTCQX市場で取引されていた BitMine Immersion Technologies,
Inc.(以下「BitMine」)が、NYSE American への上場(uplist)を果たしました。BitMineは 2023年9月28日に OTCQX Best Market での取引を開始しており 、2025年6月5日からNYSE American で「BMNR」として取引が始まりました 。この際、1株8ドルで225万株を公募し、約1,800万ドルを調達しています 。
BitMine の沿革を振り返ると、同社は 1995年にネバダ州で Interactive Lighting
Showrooms, Inc. として設立され、その後 Am/Tex Oil and Gas, Inc.(2004年)、Critical Point Resources, Inc.(2008年)、Renewable Energy Solution Systems,Inc.(2012年) など、複数回の事業転換と社名変更を経てきました 。2022年に現社名となり、ビットコインのホスティング・マイニングに浸漬冷却技術を活用する事業へと舵を切っています。設立から約30年の歴史を持つ企業ですが、度重なるピボットを経て、ついに米国主要市場への上場に至った形です。

uplisting 増加の背景

このような OTC からの転換上場は、2020年以降明確に増加しています。背景には、

  • SPACブーム後の反動(2020〜2022年):SPACによる上場が難しくなった企業が、代替手段として uplisting を狙うケースが増えた。
  • OTC の位置づけ強化:OTC Markets Group が情報開示ルールを整備(Rule 15c2-11 改正など)し、OTCQX/QB の信頼性が高まった。
  • 資金調達戦略の変化:OTCで投資家基盤や実績を作り、その後 Nasdaq/NYSE で大規模な公募に踏み切る流れが一般化。

実際、2025年には Solésence, Inc.(OTCQB→Nasdaq、4月) 、Tecogen Inc.(OTCQX→NYSE American、5月) 、iQSTEL Inc.(OTCQX→Nasdaq、5月) が相次いで uplisting を果たしています。近年は年間で数十社規模が同様の移行を実現しており、OTCを踏み台にした戦略が定着しつつあります。

OTC市場の仕組み

OTC(Over-The-Counter)市場は、NYSEやNasdaqのような「組織化された証券取引所」ではなく、証券会社やマーケットメーカーを通じて相対売買が行われる市場です。米国では OTC Markets Group Inc.(旧 Pink Sheets LLC)が主要なプラットフォームを提供しており、登録には マーケットメーカーが FINRA に Form 211 を提出し、承認される必要があります 。
OTC Markets Group は情報開示レベルに応じて三層に区分しています。

  1. OTCQX(Best Market)最上位。厳格な情報開示と監査を要し、海外の有力企業も登録。2024年には日本の メタプラネット がOTCQXに登録し話題となりました。
  2. OTCQB(Venture Market)成長企業向け。監査済み財務諸表を必要としますが、基準はOTCQXより緩やか。
  3. Pink Market(Open Market)かつて「Pink Sheets」と呼ばれた市場。最も規制が緩く、情報開示状況に応じて「Current」「Limited」「No Information」のラベルが付与されます。

OTCと資金調達

OTCはあくまで二次市場であり、OTC登録だけでは会社が新株を発行して資金調達を行うことはできません。OTCで取引されるのは既発行株式に限られます。したがって、キャッシュリッチな企業が既存株主の出口(exit)を優先する場合には有効ですが、成長資金を得るには取引所上場や別の仕組みが必要になります。

Reg A+(Regulation A+)
その例外として Regulation A+ があります。いわゆる「Mini-IPO」で、SECへの簡略化登録(Form 1-A)により、公募増資を小規模に実行できる制度です。

  • Tier 1:年間最大 2,000万ドル。州証券当局の承認が必要。利用例は少ない。
  • Tier 2:年間最大 7,500万ドル。州規制免除。監査済み財務諸表必須。年次報告(Form 1-K)、半期報告(Form 1-SA)、随時報告(Form 1-U)義務あり 。
    Tier 2は通常のIPOに近い手続きですが、S-1登録は不要で、内部統制(SOX 404(b))も不要。コストは大幅に軽くなる一方、投資家層や流動性は限定的です。

その他の枠組み

  • Regulation D:適格投資家向け私募(PIPE取引が典型)。
  • Regulation S:米国外投資家への募集。
  • S-1 登録による公募:OTC企業でも実行可能ですが、通常は取引所 uplisting とセットで行われます。

今後の展望

従来、OTCは情報開示の乏しいペニー株の場と見なされ、そこから大手市場へ移る例は稀でした。しかし近年は、

  • SPAC規制強化で直接IPOが難しい
  • OTCでの実績構築が取引所上場の前段階として評価される
  • Reg A+など柔軟な資金調達制度が利用可能

といった環境変化により、uplisting が市民権を得ています。OTCはすでに日本の大企業(例:TDK、日立、任天堂などのADR)も登録しており、今後は日本のスタートアップにとっても戦略的な選択肢として認知が広がる可能性があります。

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