US IPO

米国におけるダイレクトリスティング

ダイレクトリスティング(直接上場)とは

ダイレクトリスティング(直接上場)は、IPO同様に企業が証券取引所に株式を上場する方法です。 多くの企業は新株を発行し、一般に販売することにより資金調達を行なうIPOを選択していますが、一部の企業は新株の発行をせず、既存の発行済株式のみが販売されるダイレクトリスティングを選択しています。

アメリカではダイレクトリスティングはNasdaqにおいて過去にも時々行われていましたが、どちらこというと小規模な会社がたまに実施する程度でした。この手法が注目を集めるようになったのは、2018年4月に、SpotifyがNYSEにダイレクトリスティングを行ったのがきっかけでした。Spotifyは時価総額が3兆円にも迫る巨大なユニコーン(正確にはデカコーン decacorn)で、このような規模の企業がダイレクトリスティングを選択するというのは前代未聞の出来事でした。さらに、2019年6月にはSlackもNYSEにダイレクトリスティングを行いました。Slackも時価総額が2兆円に到達し、有名ユニコーンがダイレクトリスティングを立て続けに選択したことは驚くべきことです。

ダイレクトリスティングはIPOと異なり、新株を発行し、引受証券会社(アンダーライター)を通じて市場で販売し、資金調達を行うことはできません。ダイレクトリスティングにおいては、創業者やVC等の既存投資家、従業員などの保有株式のみが取引の対象となります。新株を発行しないため、企業の資金調達目的で実施されるものではなく、純粋に既存投資家のイグジットのために行われます。そのため、資金ニーズがない企業にしか選択することができない手段であり、事実Spotifyは上場前に27億ドル(約3,000億円)の資金をPrivate Placement等を通じて調達しており、Slackも12億ドル(約1,400億円)の資金を集めていたようで、どちらも事業継続・拡大のための資金調達ニーズは上場前に既に満たされており、上場前に投資をしていた投資家等のためにダイレクトリスティングを行ったという背景があると考えられます。

なお、IPOと異なりダイレクトリスティングを行った場合はロックアップもありませんので、新株発行を伴わない(ので、既存株主の持分が希薄化しない)こととあわせて、既存株主のイグジットという観点からは、ダイレクトリスティングの方が優れていると言えるかもしれません。

 

NYSEがダイレクトリスティングにおける資金調達を認める方針

2019年11月26日、NYSEは、ダイレクトリスティングに際し、企業が資金調達を行なうことを可能にすることを織り込んだ上場ルールの変更をSECに申請しました。

NYSEが提出した変更申請書の内容はこちら (https://www.nyse.com/publicdocs/nyse/markets/nyse/rule-filings/filings/2019/SR-NYSE-2019-67.pdf)

この変更申請が認められれば、これまではダイレクトリスティングに際しては株主が保有する発行済株式を上場することしかできませんでしたが、今後は企業が発行する新株を上場時に売出し、企業が資金調達を行なうことが可能となります。NYSEの提案では、最低限250百万ドルの新株を売出すことを条件に、上場時にオープニングオークションを実施し、企業が資金調達することを可能とする設計となっています。

従来は上場に際する資金調達はIPOに限定されていました。IPOに際しては、引受証券会社(アンダーライター)が需給や価格の調整役となり、責任をもって企業のIPOをサポートします。その代わりに資金調達額の4-7%程度を手数料(underwriter’s discount)として受け取っていました。ダイレクトリスティングによる資金調達が可能になると、需要や価格の見通しは立ちづらいものの、相当額になる手数料を節約することが可能となります。また、それ以上に、IPOの成否はアンダーライターに依存することが無くなるので、より企業の望むタイミングで上場を行うことができる可能性を秘めているといえるかもしれません。

なお、Nasdaqが同様の制度を導入するかどうかは現時点では明らかではありませんが、NYSEのルール変更がSECに認められれば、遅かれ早かれNasdaqにおいても同様の制度が取り入れられることになると思います。

ちなみに、日本では1999年に杏林製薬が一度だけ実施していますが、それ以後事例はありません。マザーズの場合、上場時までに500単位以上の公募を行うこと、という上場基準があるので、ダイレクトリスティングは不可能ですが、東証1部、2部などの本則市場には同様の規定は無いので、理論的には日本でダイレクトリスティングを行うことは現在でも不可能ではないと思われます(但し、ダイレクトリスティングで資金調達を行うことはできません)。

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。