米国証券取引所の新規則改正:Nasdaqにおける株式併合および最低入札価格要件の変更について

問題の背景と概要

近年、Nasdaqなど米国証券取引所では、株価が1ドルを下回る企業が増加し、頻繁な株式併合によって形式的に最低株価要件をクリアしようとする動きが見受けられてきました。しかし、こうした手法は企業の実質的な財務状況や成長力を必ずしも反映せず、市場の信頼性を損なう恐れが指摘されていました。そこでNasdaqでは、株式併合および最低入札価格要件に関する規則を改正し、単なる形式的手段ではなく、本質的な企業価値向上を促す方向へと舵を切りました。本記事では、そうした規則改正の背景と具体的な変更内容、さらに企業や投資家に与える影響について詳しく解説します。

はじめに

Nasdaq は、株式併合(Reverse Stock Split)および最低入札価格要件(Minimum Bid Price Requirements)に関する規則を改正しました。この改正によって、企業が最低株価要件を満たせなくなった場合の対応期間や、株式併合に伴う制約が大きく変わっています。本記事では、Nasdaqの変更点を整理し、上場企業、投資家、その他の関係者に与える影響について詳しく解説します。また、ニューヨーク証券取引所(NYSE)の関連する変更点についても簡単に触れます。
今回の規則変更は、形式的な対応ではなく、実質的な企業の健全性を重視する方向に進んでおり、企業経営者や投資家にとって、そのインパクトは大きいといえます

Nasdaqにおける株式併合に関する規則改正

Nasdaqでは、企業が最低入札価格要件を満たせなくなった場合、もともとは通知を受けたうえで180日間の遵守期間(猶予期間)が自動的に与えられる運用を行ってきました。しかし、この改正により、過去1年間に株式併合を行った企業については、猶予期間が適用されず、即座に上場廃止手続きが開始されることになりました。さらに、過去2年間に250株を1株とするか、それ以上の比率の株式併合1回以上実施している企業については、そもそも遵守期間が与えられないことが明確化されています。

株式併合の通知期限の変更と適用(発効)日

株式併合の承認基準日(Record Date)については、従来は5営業日前までにNasdaqへ通知する必要がありましたが、改正により10暦日前までに通知する必要が生じました。このルール変更(NASDAQルール5250(e)(7)およびIM-5250-3の改訂)は、2025130に発効しました。
そのため、2025130日以前に実施された株式併合には従来の「5営業日」ルールが適用されましたが、2025130日以降に実施される場合は、新たに「10暦日」ルールが適用されます。企業は株式併合の実施にあたって、従来よりも計画的な準備とスケジュール管理が求められるようになりました。

Nasdaqにおける最低入札価格要件の改正

Nasdaqでは、上場企業が一定の最低入札価格要件を満たしていることが求められています。従来、この要件を満たせなくなった場合、企業には一定の遵守期間(猶予期間)が与えられていました。
具体的には、株価が30営業日連続で1ドルを下回ると、Nasdaqから「最低入札価格要件違反」の通知が送られます。この通知を受けた翌取引日から、企業には180歴日間 の猶予期間が与えられ、この間に株価が1ドル以上に回復すれば、要件をクリアできます。
さらに、企業が一定の基準(時価総額要件や株主資本要件など)を満たしている場合、最初の180日間の猶予期間が終了しても、追加で最大180日間の延長が認められることがありました。また、Nasdaqの審査委員会(Hearing Panel)は、企業の状況を考慮し、さらに最大180日間の追加猶予を与える裁量を持っていました。

改正後の内容と影響

今回の改正により、2度目の180日間の猶予期間(延長期間)を経ても要件を回復できなかった場合、企業が審査を求めても、取引停止(Trading Suspension)の猶予が認められないことになりました。すなわち、審査委員会によるさらなる延長は事実上困難となり、最終的に上場廃止となる可能性が高まっています。

さらに、最低入札価格要件を回復するために株式併合を行った結果、企業が他の数値基準(流通株式数要件など)を満たせなくなった場合、その企業は引き続き**「最低入札価格要件を回復していない」**と見なされます。これは、他の要件違反が解消されるまで遵守が認められないことを意味し、企業の上場維持が一層厳しくなる可能性を示しています。

Nasdaqによるこうした上場規則の変更は、実質的な業績改善を伴わない形式的手段のみでの遵守を難しくし、企業に対してより本質的な財務改善・事業成長を促す狙いがあると考えられます。

企業がとるべき施策

20253月現在、これらの規則改正はすでに施行されており、企業は株価維持のためにより戦略的なアプローチをとる必要があります。短期的な解決策としての株式併合は、改正規則によって実行が難しくなり、実質的な業績向上が不可欠となりました。具体的には以下のような取り組みが重要です。

  • 収益構造の見直しやコスト削減などによる財務体質の改善
  • 新規事業や新市場への参入など、企業の成長戦略の強化
  • 投資家との関係強化を目的としたIR活動の拡充
  • M&Aや戦略的パートナーシップの活用による事業の拡大

これらの施策によって企業価値を高め、市場からの信頼を確保することが求められています。

投資家目線での影響と考慮点

投資家にとって、今回の規則改正は市場の健全性を高めるメリットがある一方、特定の企業に対するリスクを増大させる要因にもなります。頻繁に株式併合を行う企業や最低株価要件を回復できない可能性が高い企業は、上場維持がこれまで以上に困難になるからです。したがって、投資判断の際には以下の点に注意が必要です。

  • 企業の財務状況や成長戦略を綿密に分析する
  • 短期的株価変動に惑わされず、中長期的視点で企業の競争力・市場ポジションを評価する
  • NYSEでも同様の規制強化が進んでいる点を踏まえ、米国市場全体の動向にも注視する

NYSEにおける関連する規則の改正

NYSE(ニューヨーク証券取引所)でも、Nasdaqと同様に最低株価要件を満たさない企業に対する規則が強化されています。かつてNYSEでは、株価が30取引日連続で1.00ドル未満となった場合、企業には最大6か月の猶予期間が与えられ、その間に株価を回復するか、株式併合などの措置を講じることが求められていました。しかし改正により、過去1年間に株式併合を実施した企業や、過去2年間で200株を1株とするかそれ以上の比率の株式併合を行った企業は、猶予期間を適用されないケースが明確化されています。
これによりNYSE上場企業も、単なる株式併合ではなく、事業面・財務面の健全性を高めることで市場からの信頼を得る必要性が高まりました。

まとめ

2025130日、Nasdaqでは株式併合に関する通知期限が従来の5営業日前から10暦日前へと変更される改正規則が施行されました。この改正により、企業が株式併合を実施する際には、これまで以上に慎重かつ綿密な計画が求められるようになります。

また、最低入札価格要件に関しても、猶予期間の厳格化や、株式併合の多用に対する制限が強化されました。これにより、形式的な手段だけで上場を維持することが、従来よりも難しくなります。

同様の強化策はNYSEにおいても実施されており、企業は単なる対策ではなく、実質的な業績向上や財務基盤の強化に本格的に取り組む必要があります。

一方、投資家にとっても、企業の財務状況や成長戦略をより慎重に見極めることが重要になります。短期的な値動きだけでなく、中長期的な視点で企業の持続的成長を評価し、投資判断を行うことが求められています。

今回の規則改正によって、米国の株式市場全体が形式的な対応から本質的な企業価値重視へと移行しつつあるといえます。今後もSECNasdaqNYSEから公表される追加情報に注意し、最新のルールや運用状況をフォローすることが不可欠です。

おわりに

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