Fronteo Nasdaq上場廃止へ

(最終更新日:2022年6月8日)

Fronteo Nasdaq上場を廃止へ

Nasdaqに上場していたFronteoがNasdaq上場を廃止するというニュースが入ってきました。Fronteoは2013年5月にNasdaqに上場しており、約7年間でNasdaqへの上場を取りやめることとなりました。

Nasdaqについては、2019年にIIJとペッパーフードサービスの2社が上場を廃止しており、Fronteoが上場廃止することで、1971年以来初めて、日本企業(注:くら寿司の米国子会社による上場は除く)による上場が途絶えることとなりました。(2022年6月8日加筆:最新のNasdaqに上場する日本企業については、こちらの記事をご参照ください。)

Nasdaq上場廃止の背景

Fronteoは同社のリリースの中で、「当社は NASDAQ に上場以降、米国全土にオペレーション機能を広げ、ビジネスの拡大を果たすことができました。また、米国大手弁護士事務所との関係構築により、現在の AI レビューシステムの基盤を築くことができ、上場当初に掲げた目的は現時点で達成いたしました」と、Nasdaq上場の意義が薄れていたことを説明しつつ、「一方、上場継続のための決算対応等多額のコスト負担が発生している現状を踏まえ、AI を活用したビジネスモデルの転換に、経済的及び人的リソースを集中すべき状況であると、総合的に判断し、NASDAQ 上場廃止及び SEC 登録廃止の申請を行うことを決定いたしました」と、コスト面の負担という本音の理由も吐露しています。

事実、Fronteoの会計監査にかかるコストは近年雪だるま式に増大していました。同社の有価証券報告書に記載されている監査報酬を整理(毎年過年度の超過分の精算が行われているため、下記はその調整後)すると、以下のようになっています。

決算期 監査報酬 監査人
2019年3月期 280百万円 BDO三優監査法人
2018年3月期 290百万円 EY新日本有限責任監査法人
2017年3月期 286百万円 EY新日本有限責任監査法人
2016年3月期 240百万円 EY新日本有限責任監査法人
2015年3月期 116百万円 EY新日本有限責任監査法人
2014年3月期 71百万円 EY新日本有限責任監査法人
2013年3月期 135百万円 EY新日本有限責任監査法人
2012年3月期 30百万円 EY新日本有限責任監査法人

2012年3月期はまだNasdaqに上場する前で、Fronteo(当時はUBIC)はマザーズに上場しているだけでした。2013年3月期は、2013年5月に上場したNasdaq上場のための監査報酬が加算されたため増加、Nasdaq上場初年度の2014年3月期には上場のための一過性のコスト負担から解放され、一旦71百万円にまで下がりますが、翌2015年3月期には116百万円にまで増加しています。この増加の要因は厳密には分かりませんが、この年度に新たに子会社を買収しているので、買収関連の監査対応による報酬増と思われ、増加要因に異常性はうかがえません。

問題なのはその翌年で、2016年3月期には、前年の倍以上となる240百万円となっています。そしてその翌年以降も3億円弱という、売上高100億円程度の会社にとっては極めて高額な水準で高止まりしています。これではコスト負担が理由でNasdaq上場を廃止するのも仕方がないと思います。

2016年3月期に監査報酬が急騰した理由は、Fronteoの内部統制に重大な欠陥(Material Weakness)が発見されたことにあります。2015年7月に買収した子会社に関し、その買収に係る会計処理及び買収先の収益認識に関する会計処理に問題があった、というのが背景のようです。

ここで興味深いのは、Fronteoは2016年3月期の時点ではEGC(Emerging Growth Company)のステータスであり(注:上場後5年経過するとEGCのステータスは解消する)、したがって内部統制監査は必要ありませんでした。実際に2016年3月期のEYの監査報告書を見ても、Our audits included consideration of internal control over financial reporting as a basis for designing audit procedures that are appropriate in the circumstances, but not for the purpose of expressing an opinion on the effectiveness of the Company’s internal control over financial reporting. Accordingly, we express no such opinion. と記載されており、内部統制監査の対象外であったことが確認されます。

このように、内部統制監査はまだ免除されており、内部統制に関してはあくまでも経営者による評価を行えばよいという段階であったにも関わらず、このMaterial Weaknessをきっかけとして監査報酬が高騰し、結果的に2018年3月期を最後にEY新日本有限責任監査法人が退任、一時監査人となったBDO三優監査法人がそのまま2019年3月期の監査を担当するものの、これ以上膨らむ上場維持コストに持ちこたえられず上場廃止、という顛末となってしまいました。

 

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