(最終更新日:2021年2月4日)
2018年、NTTドコモと京セラがNYSEの上場を廃止
少し前の話になりますが、今年(2018年)4月にNTTドコモがニューヨーク証券取引所(NYSE)への上場を廃止しました。これは昨年4月にNTTグループの持株会社である日本電信電話株式会社(NTT)がNYSEへの上場を廃止したことに続いたものです。
また、今年2月には京セラが同じようにNYSEからの上場廃止を発表しました。こちらは今年の6月~9月あたりに上場廃止となる見込みのようです。(2019年2月28日加筆:2018年6月26日付で上場廃止が完了しました。)
NTTドコモは、NYSEへの上場廃止を決めた理由として、「外国人投資家の日本市場での株式取引が大幅に増加したことや、日米における開示や内部統制に関する規制の差異解消が進展したことなど」が要因であるとしており、京セラも「海外投資家が日本国内での市場取引に参加しやすくなったことや、日本の法令や会計基準の改正が進み開示や内部統制に関する海外との差異が解消してきたため」と同様な背景を理由として挙げています。
かつて日本企業の中ではNYSE上場という肩書はステータスシンボルでもありました。しかし近年市場がグローバル化していることや、国際会計基準(IFRS)が日本でも採用できるようになったため、東証に上場しているだけでも幅広く海外の投資家に遡求することができるようになりました。そのため以前と比べてNYSE上場メリットが薄れてきたと企業が感じるようになったのかもしれません。
日本企業の最初のNYSE上場はソニー
NYSEは、1817年に設立された歴史のある証券取引所です。ウォールストリートにあるNYSEの建物はアメリカの歴史建造物に指定され、ウォールストリートの象徴となっています。
2018年5月時点で上場企業数は約2400社、時価総額合計額は約20兆ドル、日本円で約2,000兆円($1=100円換算)の世界最大の証券取引所です。ちなみに、東証(一部、二部、JASDAQ、マザーズ)の上場企業数は合計で約3600社、時価総額は2018年4月末時点で約680兆円でしたのでNYSEの大きさが際立ちます。
日本企業で初めてNYSEに上場したのはソニーでした。上場したのは1970年9月。なお、日本企業として初めてADRを組成したのもやはりソニーで1961年6月のことでした。
日本企業のNYSE上場第2号は松下電機(現パナソニック)。70年代後半にはパイオニア、ホンダとNYSE上場が続きました。80年代にはTDK、日立に続き三菱銀行(現三菱UFJフィナンシャル・グループ)が金融業として初めて上場しました。
バブル期にはNYSE上場が下火でしたが、90年代後半から再び活発化し、1998年にオリックス、1999年にトヨタが上場したのに続き、2000年から2002年の3年間にキャノン、野村證券(現野村ホールディングス)など6社が立続けに上場するという、さながらNYSE上場ブームともいえる状況が続き、2002年末には上場企業数は17社を数えるに至りました。
潮目が変わったのは2001年に起こったエンロン事件と、それを受けて2002年にサーベンス・オクスリー法(SOX法)が成立してからです。SOX法によりNYSEを始めとする米国上場企業には内部統制監査が義務付けられることとなり、その対応への負担の大きさからNYSEへの上場がそれ以前と比べて困難となりました。さらに2007年にSECのルールが改正され、日本企業がNYSE等の米国証券取引所から上場廃止を行い、SEC登録を抹消することが比較的簡単にできるようになりました。その結果、2000年代後半からは上場廃止ブームともいえる状況となり、2006年のパイオニア、2009年のTDKを皮切りに、近年毎年のように上場廃止が続いている状況となっています。
NYSEへの上場企業の変遷
社名 | 上場年 | ステータス |
ソニー | 1970年 | 上場中 |
パナソニック | 1971年 | 2013年上場廃止 |
パイオニア | 1976年 | 2006年上場廃止 |
クボタ | 1976年 | 2013年上場廃止 |
本田技研工業 | 1977年 | 上場中 |
京セラ | 1980年 | 2018年 上場廃止 |
TDK | 1982年 | 2009年上場廃止 |
日立製作所 | 1982年 | 2012年上場廃止 |
三菱UFJフィナンシャル・グループ | 1989年 | 上場中 |
日本電信電話 | 1994年 | 2017年上場廃止 |
日本アムウェイ | 1994年 | 2000年上場廃止 |
オリックス | 1998年 | 上場中 |
トヨタ自動車 | 1999年 | 上場中 |
キヤノン | 2000年 | 上場中 |
アドバンテスト | 2001年 | 2016年上場廃止 |
日本電産 | 2001年 | 2016年上場廃止 |
野村ホールディングス | 2001年 | 上場中 |
コナミホールディングス | 2002年 | 2015年上場廃止 |
NTTドコモ | 2002年 | 2018年上場廃止 |
みずほフィナンシャルグループ | 2006年 | 上場中 |
三井住友フィナンシャルグループ | 2010年 | 上場中 |
LINE | 2016年 | 2020年上場廃止 |
武田薬品 | 2018年 | 上場中 |
2016年にはLINEが久しぶりにNYSEに上場
2016年7月にはLINEがNYSEに上場を果たしました(東証との同時上場)。日本企業によるNYSE上場は2010年に三井住友フィナンシャルグループが上場して以来6年ぶりのことでした。近年日本企業のNYSE離れが続いていましたが、今後再び増加に転じるきっかけとなるか、注目していきたいと思います。
(2019年2月28日追記:2018年には武田薬品工業もNYSEに上場を果たしています。)
(2021年2月4日追記:LINEはヤフーを傘下に持つZホールディングス(HD)との経営統合に向けた株式併合案が可決されたため、2020年12月にSEC及び東証への上場を廃止しました。)
次回は米国証券市場のもう一つの雄であるNasdaqについて調べてみたいと思います。
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