サワイグループホールディングス株式会社ご担当者様へのインタビュー~持株会社移行の背景とSEC登録の実務~

SEC登録までの背景

ジェネリック医薬品でおなじみの沢井製薬株式会社(以下、沢井製薬)は2021年4月1日、単独株式移転によりサワイグループホールディングス株式会社(証券コード4887.T 以下、サワイGHD)を親会社とする持株会社体制に移行しました。

持株会社設立にあたり、沢井製薬は米国証券取引委員会(以下、SEC)に登録しました。これは、日本の会社による日本国内の再編であるか否かに関わらず、10%を超える米国居住株主を既存株主に含む上場会社が株主移転等の組織再編を実施する場合には、SEC登録が必要というルールに則る必要が生じたためです(これらの規定や詳細な背景は、こちらの記事をご参照ください。)

沢井製薬においては、新設されるサワイGHDの株式を割当交付するにあたり、10%を超える米国居住株主が既存株主に含まれていたため登録の対象となりました。

沢井製薬持株会社化に伴うSEC登録の背景

このSEC登録に伴う財務諸表の作成や登録届出書(Form F-4)の作成に、当社がアドバイザーとして関与したのですが、企業側の担当を担ったのがグループ財務部の水田昌義様でした。この度、水田様に持株会社体制移行の背景や、SEC登録の実務に関してお話を伺いました。今後M&Aや組織再編に伴い、同様にSEC登録が必要となる会社の方々には必見の内容です。

サワイグループホールディングス株式会社グループ財務部水田様とのインタビュー

持株会社を設立した経緯をお聞かせ下さい

南塚:大変なプロジェクトでしたが、無事完遂できましたね。この件、そもそもですが、いつごろから話が始まったのでしょうか。

水田:取締役会を含め、動きだしたのは2019年の株主総会後でした。

南塚:最初はどんな感じでスタートしましたか。

水田:持株会社化するという大枠だけ決まっていて、持株会社化するには

  • 沢井製薬を持株会社にし、その下に事業子会社をスピンアウトさせぶら下げる
  • 沢井製薬の上に、新しい持株会社を新設する

という2つ選択肢があり、断然楽なのは前者でしたが後者の新設を選びました。

その理由としては、前者だと、沢井製薬の医薬品に記載されている会社名を全て新しい社名に変更しないといけないため、生産と研究の部門に多大な負担がかかります。それは避けたいので、管理部門だけで完結できる新設を選びました。

南塚:沢井製薬を持株会社にして、その下に例えば沢井ファーマのような会社を作ると、医薬品の箱や添付文書などに書かれている会社名を全て変えないといけないということですね。

水田:当時700以上の製品ラインナップがあったので名前を変えるのがかなり大変でした。

新設するにあたり、コンサルタントから米国居住株主が10% を超えているのでSECに登録しないといけないということを知りました。

南塚:米国株主が10%を超える状態はいつ頃からでしたか。

水田:詳細な調査はしていないのでわからないのですが、以前から10%を超えていたようです。2017年12月増資で割合は減少しましたが、それでも現在15%前後いらっしゃいます。

南塚:米国居住株主が10% 超えているのでSECに登録しないといけないというルールは社内でどなたかご存知でしたか。

水田:社内では誰も知らず、コンサルタントから教えてもらいました。

監査法人からはPCAOB基準の監査になるのでとても厳しくなると言われました。

財務諸表の英訳含め会社だけでは対応が難しいということで、Quantum Accountingへ依頼しました。それがちょうど2019年9月でした。

南塚:もともとIFRSで監査を受けていて、英文でIFRSの財務諸表も作っていながらそれで通らないのか?という話は社内でありませんでしたか。

水田:当初、そのような認識に基づいた意見もありました。

アドバイザリーも監査法人が入っていて、IFRSに基づいた開示による財務諸表も監査法人がみているので、英訳するだけならそんなに大変ではないのでは?と役員に言われました。

そこで単純にIFRSの基準と照らして弊社で改善すべき箇所を分析すると、特にのれんの減損、金融商品、リベートなどが大変そうだと分かりました。

見積方法が明確でなく、あやふやな記載に留まっているところは、絶対にPCAOB監査で突っ込まれるという話があり、そこで上層部も意識が上がりました。

南塚:確かによく、IFRS開示のためには、経営管理情報、企業の末端まで情報を吸い上げるシステムというかストラクチャーを作らないといけないと言われますが、まさにその場面に直面したわけですね。

水田:今までの開示は、他社を参考にしたらいい、横並び的なもので対応すれば大丈夫でしょうという感じで、監査法人も指摘してくるのは、他社がこういうことを書いている、もしくは書いていないということだけでした。

ところが今回のForm F-4作成の時には、「その開示で投資家に対して十分な説明をしていると考えているか」について監査法人に問われました。

投資家や株主に対して有価証券報告書やForm F-4を通じて説明ができているのか、上層部が考える良いきっかけとなり、しっかりと書き換えていこう、ということになりました。

持株会社の設立を経験して変化はありましたか?

南塚:現在は企業としてどのような開示を作成し、見積もりを行っていますか?以前と変わりましたか?

水田:そうですね、のれんや無形資産の減損については、誰に対して説明をしても矛盾がないように検討するようになりました。

南塚:説明責任を意識するようになったのですね。ジェネリック医薬品の品質管理問題と表裏一体というか、企業の姿勢とリンクしますね。

水田:お薬のことを患者さんや医療機関に説明することとも通じた姿勢ですが、数字一つ取ってみても、例えば減損になる、ならないといったところだけでなく、問題があっても、課題は云々で、こういう方向に解決していくから減損にはならないとか、減損するなら事業計画はこうなっていきますとか、数字をもとに実態を把握して、どう丁寧に説明するかを意識できるようになりました。

この考え方は、お薬を作って適切な説明をすることとよく似ているので割と上層部に受け入れられやすかったです。

南塚:素晴らしいですね。そこで苦労する企業が多いです。弊社も一緒に作業をしていて「それが正しいならそっちにしよう」と対応してくださるのが大変ありがたかったです。

水田:契約相手との関係で出せないものをどう出そうかとか、審査で否定されて書き直しという大変な場面もありました。結果的に書ける範囲でどう表現するか、落とし所含めうまくいった気がします。

SECの審査を振り返ってみて

南塚:振り返ってみて成功したこと、失敗したことを教えていただけますか?

水田:失敗はあまり記憶にないのですが・・・あそこはよくなかったなと振り返って感じるところは、監査法人の内部審査のチェックを甘くみていました。監査法人も弊社のスタンスを尊重してくださり、開示内容の明瞭性を相当厳しくチェックしてくれましたが、その分公表直前まで指摘による修正が続きました。現場の結論がひっくりかえされる可能性を想定した余裕分を含めたスケジュールを想定してなかったので、そのあたりも考慮して慎重にスケジュールを組んでおくべきでした。

南塚:内部の意思決定はフレキシブルに対応できましたか?

水田:社外取締役・社外監査役へ説明するスケジュールを設定したあとは、その日までに論点を整理して、どういう開示にすべきか、上層部が判断できる資料をまとめるという作業を完了しなければならないことが大変でした。いったん設定した説明の場をリスケジュールすることは簡単なことではありませんから。それ以外は役員の判断がスピーディーだったのと、トップと現場が近かったのがよかったです。

南塚:うまくいったことはいかがですか?

水田: 一つ目は情報を理解するために社内でキーパーソンとのつながりを得て理解に繋げられたことです。

Form F-4やForm 20-Fを作り始めた頃、単に基準に則った開示をしていくだけではなく、特に前段のMD&Aのところも含め、会社のビジネスがそもそもどのように成り立っているのか、細かいところを知らずに作り始めました。例えばなぜ国内でジェネリック医薬品の使用割合80%が求められるのか、求められる以上の品質を維持し安定供給を行うために、みんながどう取り組んでいるのかも知りませんでした。このあたりを投資家に理解してもらうために丁寧に説明しようと努力した結果、研究開発・薬制・生産・営業の方からいろんな情報を教えてもらうことができ、自社や自社の置かれている規制や環境等、理解が深まったと思います。

二つ目は、1年目の反省を踏まえて、2年目は細かくスケジュール管理ができるようになったことです。継続開示である四半期についても特段問題なく、むしろ今の方が作業は早くなっています。計画がある程度整っていて、それに基づいて作業していくという体制がチーム内で構築できました。

南塚:経営管理上の情報が集まってきて、それを順序立てて捌くことができるようになったのは大きな成果ですね。今後ESGやSustainability、温室効果ガスの定量的・定性的な情報開示が拡充されていくと思います。その際に情報収集体制が整っていることは非常に大きなメリットですし、情報の正確性を担保して開示していくことは重要です。また開示の範囲も広がっていくので、今後に向けた素晴らしい下地ができましたね。

他部署とのコミュニケーションをうまく取ることができること、会社、規制環境、サプライチェーンの状況など包括的に理解が深まることは将来に向けてのいい財産だと思います。

水田:まさにこれから気候変動に関する開示を有価証券報告書の前段でどう書くかを話しているので、サステナビリティ委員会はじめキーパーソンとうまくやり取りできていることはいいことだと思います。

南塚:ぜひ開示の沢井!になっていくといいですよね。

水田:まだまだ改善点はありますが、今回のSEC対応で開示において何が重要でどれだけ力を入れるべきかがしっかり理解できてよかったです。

南塚:今後はインプットとアウトプットの関係性と質、双方を重層的に説明していくことが必要になると思います。

お金のインプット、つまり借入や資本といった定量的なものと、生産に対するインプット、つまりどのようなエネルギーを使っているのか?サプライチェーンの構築体制や品質管理の状況はどうか?といった定性的なもの、それらを重層的に説明して、またそのデータが正しいかについての検証をステップバイステップで毎年要求されていきます。

企業の開示当事者にとっては大変なフェーズを迎えていますが、多くの企業はその大変さをまだ認識していない。今回のSEC登録で御社は先手を打たれたと思います。

グループ財務部としてはどのように対応されましたか?

南塚:財務部の体制にテコ入れありましたか?

水田:決算チームに変更はありません。開示の担当、監査法人対応の担当、など業務ごとに担当を決めて対応しました。業務は純増しましたが、従来のメンバーで乗り切りました。最初に少し業務委託の方に時間勤務で手伝ってもらったのですが、半年だけでした。よく乗り切れたと思います。

南塚:IFRSのコンバージョンが終わっていたのが大きいですね。

水田:多少のノイズはありましたが、全体的には過去のコンバージョンが比較的うまくいっていましたので、Form F-4を作成するための追加作業に専念できました。

南塚:GAAPコンバージョンから始めていたら大変でしたよね。原価の計算の仕方も変わるので、利益指標・営業指標も全く変わってしまいますから。

水田:例えばIFRS上の無形資産についてなど、論点ごとに経営陣に説明する必要があったならばForm F-4の作成は時間的に厳しいものになったと思います。

南塚:そこから作成を始めるとなると、ボリュームが非常に多くなりますよね。

水田:振り返るといい経験をさせてもらえたと思います。

今後SEC登録を行う方に向けてのメッセージ

南塚:これからSEC対応をされる同じ立場の方に何かアドバイス頂けますでしょうか。

水田:SEC登録の話がなければ、有価証券報告書を英訳すれば開示はなんとかなるという感覚でいました。しかし、外部の人に分かりやすく会社の状況を説明するには、会社のリスクを正しく理解しなければなりません。また、どのように記載することが開示として有用なのか、投資家など利害関係者への説明責任を意識して作らないといけないと強く思いました。そこを理解できたのがいい経験でした。

加えてスケジュールが大事です。絶対に守らなければいけない期日は何か、フレキシブルに対応できる期日は何か、そのメリハリが管理のポイントでした。

以前に監査法人に勤めていたのでSEC対応が大変だとは聞いてはいましたが、こんなに大変とは予想していませんでした。

南塚:SEC登録という大きなマイルストーンを超えるのは本当に大変なことだったと思います。本日はお時間をいただき、ありがとうございました。

 

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