US IPO

SPACを経由した米国上場の舞台裏を、2020年一番の大型案件を使って解説

はじめに

当事務所にも毎週のようにお問い合わせを頂いているSPACに関して、具体的にどのように組成され、どのような要件、手続等が必要か、2020年SPAC最大の大型案件と言われているQuantumScape社の事例を使って解説します。

QuantumScapeは元々2010年にJagdeep Singh、Tim Holme、Fritz Prinzの3氏によってスタンフォード大学からスピンアウトして設立された全個体電池の開発会社です。2012年にはフォルクスワーゲンが出資、2020年までに合計3億ドルを投資してきたと伝えられています。ビルゲイツが出資した会社として有名で、また同社の取締役にはTeslaの前CTOで、現在バッテリーのリサイクル事業のベンチャーRedwood Materialsを率いているJ.B. Straubel氏も含まれています。

QuantumScapeは2020年11月27日、SPACであるKensington Capital Acquisition Corp. (Kensington SPAC)に買収され、NYSEへの上場を果たしました。Kensington SPACはKensington Capital Sponsor LLC という会社がスポンサーになって設立され、Justin Mirro氏という自動車業界を渡り歩いてきた投資家(かつてトヨタや伊藤忠にも籍を置いていたそうです)が率いているSPACです。Kensington SPACはQuantumScapeの買収と同時に社名をQuantumScapeに変更、現在は存続会社であるQuantumScapeがNYSEに上場しているという形に収まっています。

SPAC上場までの足どり

Kensington SPACの設立は2020年4月17日で、わずか25,000㌦(約2.5百万円)の現金を資本金(資本剰余金含む)として設立されたペーパーカンパニーです。このSPACは、北米の自動車及び自動車関連産業に投資をすることを目的とし投資家から資金を集め、設立わずか2か月ほどの2020年6月30日にNYSEに上場、約2.3億ドルを調達しました。

上場にあたりSECにドラフトのRegistration Statement(登録届出書)・Form S-1を提出したのが2020年5月8日(SPAC設立後わずか3週間後)、その1か月後の6月9日にはForm S-1が正式にファイリングされています。6月25日はSECへの登録が完了し、6月30日にはNYSEへの上場完了というステップとなっています。会社設立前に準備を進めていたことは容易に想像できますが、それにしても驚くほどの手際の良さです。

SPACが対象会社を買収するステップ

SPACは上場後に買収対象会社を選定し、交渉を行います。Kensington SPACの場合、上場から2か月後の2020年9月3日に、臨時報告書に該当するForm 8-Kを提出し、前日(9月2日)にQuantumScapeと買収契約を締結したと報告しています。SPACがIPOした時点では、「買収対象会社に関しては何ら決定しておらず、対象候補となる会社とも何ら重要な討議を行っていない」と公表していたことを鑑みると、こちらも驚きの速さです。

さて、この買収契約書の内容から、どのようなスキームで統合が行われたか読み解くことが出来ます。それによると、

① まず、Kensington SPACが完全子会社のペーパーカンパニー(Merger Sub )を組成。

② Merger SubとQuantumScapeが合併、QuantumScapeが存続会社となりKensington SPACの子会社となる。

③ 統合と同時に、QuantumScapeの株式はKensington SPACの株式と(合意された交換比率で)交換され、QuantumScapeの株主は自動的にKensington SPACの株主となる。

④ Kensington SPACが社名変更し、QuantumScapeとなる。

統合にあたり株式交換が必要で、Kensington SPACの株主の賛成が必要であったため、臨時株主総会に先立ち、SECへの登録届が必要となりました。そのため、登録届出書であるForm S-4が9月21日に(初回)提出され、その後何度か会社とSECとのやり取り、修正を経て11月12日に登録完了・効力発行となり11月25日にKensington SPACの臨時株主総会で買収提案が承認され、11月27日に買収完了(もはやSPACではなくなるため、de-SPACとなる)した、という段取りとなりました。

SPACの資金調達の機動性を担保するPIPEの役割

なお、お金の動きに注目すると、SPACと並んでPIPE(Private Investment in public equity)がスキームの両輪として機能していることが良く分かります。QuantumScapeのNY上場までのお金の動きを見てみると、

① 25,000㌦(約2.5百万円)の資金でKensington SPACが設立。

② Kensington SPACのIPOに際して、投資家から2.3億㌦(約230億円)を調達、全額が信託口座にて保全(M&A資金にのみ利用可、IPO後24か月の期限内にM&Aが成立しなければ投資家に返却)される。

③ IPOと同時に、Kensington SPACのスポンサーであるKensington Capital Sponsor LLCが6,575,000㌦(約6億57.5千万円)を追加出資。一般投資家から集めた資金はM&Aにのみ利用可能であるため、IPOの際に支払う投資銀行の手数料や、弁護士、会計士などの経費の支払いのために必要な資金を供給。

④ Kensington SPACがQuntumScapeを6.8億㌦(約680億円)で買収。SPACとして集めた資金は2.3億㌦であるため手元資金では不足する。そのためM&Aと同時にKensington SPACはPIPEインベスターとPIPEのアレンジを締結して、M&Aに必要な資金を追加で調達(5億㌦(約500億円))している。なお、PIPEとは、株式の募集・売出の際に、限定された投資家に募集・売出を行う私募の方式のことを言います。

このように、SPACの資金調達はIPO時に一般投資家から調達する分と、上場後M&Aを実行する際にPIPEを通じて調達する2段式となっていることが良く分かります。2020年にアメリカですべてのSPACが上場に際して調達した資金は、合計830億㌦(約9兆円)にのぼります。しかし、ここにPIPEインベスターから追加で供給される資金が実際のM&Aに際して使われることを考えれば、この先数年で途方もない金額がM&Aに使われていくことになります。米国資本市場のとてつもなく巨大な流動性には驚くばかりです。

おまけ(会計監査人)

監査法人は、Kensington SPACの監査人はMarcum LLPという会計事務所(全米第16位という規模)が担当していました。QuantumScapeの監査人はEYでした。統合後はMarcumが監査人を降り、EYが新QuantumScapeの監査人となっています。

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