引き続きお問い合わせの多いSPACに関して、最近大変興味深い事例が出てきたので紹介したいと思います。
なお、通常のSPAC上場スキームに関してはこちらの記事をご覧ください。
「SPACを経由した米国上場の舞台裏を、2020年一番の大型案件を使って解説」
2020年10月に、英国のバイオベンチャーである『4D Pharma』(ロンドンAIM上場)が、2018年に米国で設立されたSPAC、『Longevity Acquisition Corp』と統合し、Nasdaqに上場すると発表しました。通常のスキームであれば、SPACが事業会社を買収する形で統合するので、最終的に米国籍の会社として上場する形になるのですが、この統合では4D側が買収会社、SPAC側が被買収会社という形で、英国籍の4Dが存続し、FPI(Foreign Private Issuer: 外国籍の発行会社)として、2021年3月にNasdaqに上場を果たしました。これによりSPACからは約USD 15 million、同時にPIPEインベスターであるMerck Sharp & Dohme CorpからUSD 25 millionの資金調達が行われ、合計USD 40 millionを4Dは調達しました。
このスキームにおいては、ADR(米国預託証券:外国企業が発行した株式を裏づけとし米国で発行される有価証券)がSPACの株主へ対価として使われています。具体的なスキームは以下の通りでした。
1)4DがBritish Virgin Island(BVI)に完全子会社のペーパーカンパニー、Dolphin Merger Sub社を設立
2)Dolphin社が存続会社としてSPACを買収
3)同時に4Dは自社の株式を預託し、ADRを発行
4)SPACの株主に対し、対価として4DのADRを付与
その結果、4DのADRがNasdaqに上場し流通、取引されるという形となりました。
なお、4DはNasdaq上場後もAIMの上場を維持しており、二重上場という形となっています(4D社の発行済株式のうちADRの割合は約1/3)。なお、この上場スキームはJ.P. Morganが世界で初めて構築したとことです。
これまで日本企業にとって米国SPAC上場は課題がたくさんありました。その課題の一つが米国籍の会社であるSPACに買収されると、日本企業が結果的に米国籍の会社になってしまう、ということでした。これがFPIとして上場することが可能であれば、FPIに認められた以下のような恩典を利用することが出来ます。
・コーポレートガバナンス体制の許容(米国では委員会制度の採用が必要だが、FPIは日本法に基づき監査役会設置会社でも可能等)
・取締役の報酬に関する個別詳細開示の免除
・関連当事者取引にかかる開示の免除
・四半期報告含む継続開示が簡略化
・SEC登録届出書に含めるべき財務諸表の消費期限が15ヶ月となり、米国企業より長くなる
このように米国籍になることに伴うリスクや負担、FPIのステータスを使えることのメリットを勘案すると、当スキームの有効性はかなり高いと言えます。
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